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東京高等裁判所 昭和53年(ネ)905号 判決 1978年10月27日

控訴人

大蔵工業株式会社

右代表者管理人

高木新二郎

右訴訟代理人

大塚一夫

太郎浦勇二

被控訴人

秩父産業株式会社

右代表者

染谷博平

右訴訟代理人

玉田郁生

細野静雄

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人(債権者)と控訴人(債務者)との間の東京地方裁判所昭和五二年(ヨ)第六八一一号債権仮差押申請事件について同裁判所が昭和五二年九月九日にした債権仮差押決定を取り消す。右仮差押申請を却下する。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は主文第一項同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上、法律上の主張並びに証拠関係は、

控訴代理人において、

「一、商法三八三条二項の規定により仮差押が禁止されるのは整理の対象となる債権を被保全権利とする場合に限られるとする見解は、次の諸点において誤りである。

1  会社整理手続においては、整理案において変更の対象とすべき債権の範囲は法定されておらず、自由に定めうる。そうすると、仮差押が禁止される債権の範囲は整理案の立案者が自由に定めうることになり妥当でない。

2  整理案立案までは整理案による変更の対象とすべき債権の範囲は確定されないから、それまでは仮差押を禁止すべき被保全権利であるか否かが判然とせず相当でない。

3  のみならず整理案による変更の対象としないまでも、整理開始後相当な時期まで個別的権利行使を禁止するのが相当である債権もないでもない(むしろ、多数債権者が一時に個別的に権利を行使するのを禁止しながら会社の体質を改善し、債権全額を弁済することが望ましい。整理案によりあらためて期限の猶予につき同意をうるまでもないことがあろう。)。

4  整理案につき債権者の同意をえ、実行命令をえたのち、さらに変更すべき債権の範囲を拡張して整理案の変更案を立案することも理論上は可能であり、実務上もその必要がありえないわけではない(まず整理開始前の原因に基づく債権を変更する整理案を立案して実行したが、その後の状況の変化により整理開始後の原因に基づく債権をも変更する必要が生ずることがありうる。)。

二、前項および原審で主張したほか、次の理由により新勘定債権を被保全権利とする仮差押は許されないと解するのが相当である。

1  整理手続も破産原因が生ずるおそれまたはその疑がある状態において多数債権を集団的に公正に処理するため開始される手続であるから、新勘定債権の総額を弁済できないときは、破産法五一条一項、会社更生法二一〇条のごとく平等割合弁済をなすべきであつて、個別的に早い者勝ちに権利を行使させるのは相当でない。このような場合には破産手続を開始すべきであつて(商法四〇二条)、個別的権利によつてことを解決するのは相当でない。

2  新勘定債権に基づく仮差押を無制限に許すと、整理手続の円滑な進行が阻害される。

3  整理手続は裁判所の監督に服するから、整理裁判所の適切な監督権行使により新勘定債権者の保護に遺憾なきを期しうるし(非訟事件手続法一三五条の二五第一項)、管理命令あるときは、管理人に対し損害賠償を請求しうる(商法四〇三条二項、破産法一六四条)。」棄却と述べたほかは、原判決事実摘示と同一である(ただし、原判決別紙仮差押債権目録二行目に「第三債務者」とある次に「東京都」を加える。)から、ここにこれを引用する。

理由

当裁判所も、被控訴人の本件仮差押申請は正当としてこれを認容すべきものと判断するものであるが、その理由は、原判決六枚目裏三行目より六行目までを削り、同七枚目表四行目より八行目までを「右事実によれば、本件被保全債権は、控訴人の整理計画案につき実行命令が出されたのちに発生した控訴人と被控訴人との間の取引上の債権であることが明らかであるところ、整理会社に対する債権のうち少くとも整理計画案につき実行命令が出されたのちに発生した取引上の債権に基づく会社財産に対する強制執行、仮差押、仮処分等は商法三八三条二項の規定によつて禁止されないものと解するのが相当である。整理会社に対する債権に基づく会社財産に対する強制執行、仮差押、仮処分等はその債権発生が整理開始命令の前であると後であるとを問わずすべて商法三八三条二項によつて禁ぜられるか、それとも右債権のうち同条項によつて右強制執行等が禁ぜられないものがあるのかについては同条項、その他の商法の規定上必ずしも明らかではないが、会社の整理にあたつては、会社の経営方針、将来の収支予想、負債償還、債権者又は担保権者の権利変更、会社の内部改造、経営資金の調達等会社の経営全般にわたつて会社再建の方途を検討したうえ、再建の見込みがあるものとして整理計画案が樹立され、実行命令が発せられるのであり、したがつて、その後に行われる会社の取引は、右計画案の一環としてなされ、これなくしては整理計画案の逐行、ひいて会社再建ができなくなるのであるから、何としても右取引の相手方を見出して取引を行つてゆく必要があり、そのためには取引によつて生ずる相手方の債権に対し強制執行、仮差押、仮処分等の禁止というような拘束を与えるのは相当でないからである。もつともこのように解して右強制執行等を許すことにすれば、これによつて整理手続の円滑な進行が阻害される場合が生ずることもありえようが、整理計画案につき実行命令が出されたのちの会社のなす取引においてはもとより整理計画案逐行の支障とはならないよう配慮して弁済資金の調達が計画され、債務履行の時期、方法等取引条件が決せられるであろうから、実際問題としては右述のような懸念は少いものと思われ、かりに会社財産に対する強制執行等により整理手統の進行が阻害されるような事態が生じても(そのときは、多くの場合も早整理は失敗に帰したものとして破産手続へ移行することになるであろう。)、それはやむをえないのであつて、整理手続の円滑な進行ということも無制限ではないというべきである。

以上の次第で、本件被保全債権による控訴人の財産に対する仮差押は商法三八三条二項の規定により禁止されるものではないから、控訴人のこの点に関する主張は採用することができない。」と改めるほかは、原判決理由説示と同一であるから、ここにこれを引用する。

そうすると、本件仮差押決定を認可した原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(小林信次 鈴木弘 河本誠之)

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